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【特別コラム】11.14『DRAGON EXPO 1995〜無我〜』試合展望

11・14後楽園。ドラディションが源流となる「無我」を復興させる。

藤波がレスリングの原点回帰を追求すべく1995年10月29日に大阪・ATCホールで旗揚げした「無我」。 その名は、当時、藤波がすべての虚飾を捨て、我を忘れてレスリングに没入することを考えていた時に自然と浮かび上ってきたという。 以来、今年2月28日に53歳の若さで亡くなった西村修さんらと共に「無我」から「無我ワールドプロレスリング」で理想を追求した。 西村さんの退団後は現在の「ドラディション」を立ち上げ闘いの歴史を重ねて来た。原点から30周年を迎えた節目に「無我」をスタートさせた初心へ立ち戻る全8試合は、 レスリングの原点と言えるすべてシングルマッチの画期的なラインアップとなった。そして、そこには、参戦するレスラーの歴史と道程が込められている。

メインイベント

メインイベントの「藤波辰爾vsザック・セイバーJr.」は、藤波にとっては冒険、ザックは憧れがテーマになる。今年5月9日にデビュー54年を迎えた藤波。新日本プロレスの最高峰「IWGP世界ヘビー級王座」を2度戴冠したザックとの一戦を「大きな冒険」と語った。

71歳の藤波が38歳と全盛期のザックとの一騎打ちは、プロレスの長い歴史の中でも前例のない「冒険」だろう。幾多の名勝負を刻んできたドラゴンが今、未知の領域へ挑む。 対するザックは、藤波戦を「夢の対決」と胸を躍らせた。ふるさとの英国シェピー島でプロレスラーに憧れた少年時代。藤波が躍動したジュニアヘビー級時代からのビデオを夢中で見た。そんな憧れの存在と過去に2014年4月13日と22年3月1日の過去に2度、タッグでは対決しているが、一騎打ちで闘う時が来たことは、ザックにとって夢の実現だろう。

さらに10・13両国国技館でKONOSUKE TAKESHITAに敗れIWGP世界王者から陥落しただけに再び最高峰を極めるために藤波から「イズム」を吸収したい一戦でもある。

試合の行方は、藤波が明かした言葉がヒントになる。自身が参戦した新日本プロレス6・29名古屋大会で後藤洋央起を破りIWGP世界王座を奪還した一戦を「あの試合での彼の闘いこそ自分が目指していたレスリングだった。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンの英国スタイルでこれぞランカシャーという我々が忘れかけていた動きだった」と明かす。 この思いから試合を展望するとザックが仕掛ける関節技を軸にする「キャッチレスリング」に藤波が真っ向から受けて立つ展開が予想できる。一瞬で極まる攻防は必至で一秒たりとも目が離せない緊迫の一戦になるだろう。

セミファイナル

セミファイナルは、長井満也と新日本プロレスの永田裕志の一戦が組まれた。2人の出会いは、2001年2月18日、新日本プロレス両国国技館大会だった。 当時、長井は全日本プロレスにレギュラー参戦していた。ここから同年6月8日に全日本・日本武道館大会でアジアタッグ王座を争い、 さらに長井が2003年から星野勘太郎総裁が率いる「魔界倶楽部」に加入し新日本へ本格参戦し永田とも火花を散らした。

その後、長井は2009年から「無我ワールド」に所属。永田はIWGP王座を10度防衛するなど新日本の屋台骨を支え続けて来た。 24年に及ぶ2人の物語。共に蹴りが武器なだけに打撃戦が軸になる骨を削り合う激闘は間違いないだろう。

第6試合

第6試合は、LEONAがプロレスリング・ノア「情熱RATEL‘S」征矢学へ挑む。2013年11月19日の船木誠勝戦でデビューしたLEONA。 前年4月に父の藤波へプロレス入りを直訴し、レスラーとして武者修行した場所が英国だった。父が「無我」を設立した時に理想に掲げたランカシャースタイルを学び、デビューまで汗を流した。 「無我」には触れていないLEONAだが自身のプロレス人生の出発点には「無我」の理想が息づいており、まさに原点回帰の闘いになる。その意味で対戦する征矢は格好の敵になる。 征矢は07年に「無我ワールド」への入団がレスラーとしてのスタートだった。同年4月11日後楽園大会でデビューし、藤波、さらに西村さんからプロレスラーの基礎を徹底的に叩き込まれた。 デビューから半年後に西村さんと共に全日本へ移籍。14年からはWRESTL-1へ移り現在はノアに所属している。 団体は変わったが持ち前のパワーファイトのベースには一貫して正統的なレスリングスタイルがベースにあり常に「情熱」あふれるファイトで闘ってきた。西村さんには他人には、 はかり知れない思い入れがある征矢だけにLEONAへ自らの「無我」を注入する試合になるだろう。征矢のパワーにLEONAがどこまで抵抗し勝利をつかめるか。 LEONAにとって真価が問われる一戦になる。

第5試合

第5試合は、共に1984年に新日本プロレスでデビューした船木誠勝とAKIRAの同期対決が実現する。ヤングライオンとしてデビューから新日本の前座を沸かせた両雄。 86年に前田日明が率いる「UWF」が新日マットへUターン参戦するとタッグを組み、UWFの安生洋二、中野龍雄(現・巽耀)と激闘を展開した。 2人が若手だったころの新日本の前座は、黙々と関節技を取り合い気迫をぶつけ合うストロングスタイルの原点と言える試合を展開していた。ヤングライオン時代に切磋琢磨した2人。 船木は「UWF」「藤原組」「パンクラス」と変遷した歴史、AKIRAは「平成維震軍」、フリーと修羅場をくぐってきた。 歴史と進化を見せつけながら「あの頃」を彷彿とさせる闘いになるだろう。

第4試合

第4試合は、越中詩郎と黒潮TOKYOジャパンの異次元対決が組まれた。全日本でデビューした越中は85年夏から新日本へ本格参戦し、初代IWGPジュニアヘビー級王座を奪取。 その後、藤波が結成したユニット「ドラゴンボンバーズ」へ加入した。ボンバーズは藤波にとって「無我」を旗揚げする以前に結成した初のユニットでその意味では「無我」につながる原点とも言える。 昨年デビュー45周年を迎え現在も必殺の「ヒップアタック」は健在。そんな硬派なサムライがマット界随一の軟派男の黒潮と初の一騎打ちは、全8試合の中でもまったく展開の読めない一戦だ。 黒潮も「ストロングスタイルプロレス」9・9後楽園で師と仰ぐ船木をトペコンヒーローで右肩を脱臼に追い込み「レジェンド王座」を奪取。 以後「ストロングスタイル」を自称しているだけに「無我」の名の下にこれまでにはない硬派な顔が見られるかもしれない。

第2試合

第2試合は、08年にドラディションに入団した田島久丸と銀座プロレスの三州ツバ吉が対戦。 田島は12年9月に引退もプロレスへの情熱が冷めやらず20年に復帰した。 ドラディションではレギュラー参戦し180センチ、130キロの体格を生かしたパワー殺法でリングを沸かしている。 三州は、最近、柔術を本格的に学んでおり田島のパワーに柔術仕込みの寝技で応戦する展開が予想される。 

第1試合

第1試合は、共に「無我」に入門しデビューしたMAZADAと竹村豪氏が対戦。MAZADAは95年、竹村は97年にデビューした。 2人のレスラー人生は「無我」が原点であり歴史でもある。それだけに、今大会のオープニングマッチでこれほどふさわしい試合はないだろう。 30年の歴史を感じる白熱の第1試合を期待したい。

全8試合。いずれも目が離せない注目のカードがそろった。きっと西村修さんも天国から見守っていることだろう。西村さんへ「無我」を「捧げる」11・14後楽園だ。

文:スポーツ報知 福留 崇広

※関本大介選手の足の骨折による欠場の為、第3試合の代替選手は現在未定となっております。 決定次第お知らせを致します。ご理解のほど宜しくお願い申し上げます。